The Food Crafter
人と人とがつながって
生まれたかき氷の物語
無農薬のフルーツを使った、ナチュラルな味わいのシロップをかけたかき氷ならば、美味しくないわけがない。でもそのかき氷の魅力は、美味しさだけでなく、その裏側に秘められた人がつながっていく物語にあったのだ。
田舎の夏休みのような
のほほんとしたかき氷店
住宅街のど真ん中に、ひっそりと隠れるようにある「SETOUCHI HIDAMARI KAKI-GORI 鷺沼店」。真夏の真っ白な日差しに照らされててくてくと歩くこと、駅から10数分。そこにたどりつくと、どこか田舎でのんびり夏を過ごしているような、そんな不思議な気持ちが湧いてきた。
なぜ、こんなところにかき氷店があるのか? そこには長い物語がある。
「SETOUCHI HIDAMARI KAKI-GORI」の本店は香川県。リノベーション物件を手がける不動産業の女性、内海芳美さんが、自社物件を使ってかき氷店をオープンしたことにある。
無農薬の瀬戸内産フルーツを使ったふわふわのかき氷は、あっという間に話題を呼んで人気店に。その2号店としてオープンしたのが、ここ鷺沼店。
高級住宅街のお屋敷とお屋敷の隙間にある小道を入ったこの物件、なんと10年近くも放置されていた建物だったのだとか。それをリノベーションしたのが、内海さん率いるひだまり不動産だったという。
古い窓枠などのレトロな風情をそのまま残し、デッキをつけたり、ガレージスペースを庭にしたり、おしゃれなリノベーション物件として生まれ変わったのだ。
1階3部屋の真ん中にあるのが、「SETOUCHI HIDAMARI KAKI-GORI 鷺沼店」。
「最初は、建物の共有スペースだったのですが、
あまり活用されていなかったので、
それならお店にしようということになったそうです」。
と教えてくれたのは、麦わら帽子の似合う店長のむらまつえりかさん。口コミでウワサは広がり、あたりには住宅しかない場所ながら、お客さんがポチポチ切れ目なく訪れる人気店となったのでした。
見た目のキュートさとはうらはらに
大人の口に合う繊細なかき氷
キュートな見た目ですが、なかなかどうしてすっきりした甘さで、大人がおいしく食べられるところも人気の理由。
そのすっきりした味わいは、地元瀬戸内の無農薬フルーツを使ったピュアなシロップにあり。フルーツの甘さや酸味、柑橘の皮の苦みなど、自然なフルーツの味を生かしているので、甘いだけじゃないところが魅力。器の底には、ヨーグルトソルベが隠されているので、最後まで飽きずに美味しく食べられるのもいい。
香川在住のパティシエなど、シロップを手掛けるのは3人のプロ。こちらも実はひだまり不動産の物件のテナントとして入っているパティスリーというつながりから生まれたのだそう。それぞれ個性を生かしたシロップを作ることで、バリエーションに幅が出て楽しみも2倍、3倍に。
氷を細かく丁寧にかいたかき氷は、ふんわりと空気をはらんでまあるく膨らんでいる。シロップをかけて、上にトッピングするのは地元の和菓子「おいり」。香川の結婚式にはかかせないモチ米から作られる伝統的な和菓子なのだそうだ。
ところで、最初に田舎の夏休みのようなほのぼのとした空気が流れているなぁと感じたのは、店長のむらまつさんの存在によるところも大きい。
彼女は全国デビューも果たしているミュージシャンでもあり、なんともいえないほんわかとした人柄がこの店の雰囲気になっているのだ。この店のオープニング・ライブで歌ったことがきっかけで、店長を務めることになったという。
いろんな人の人生が交差して、やがて、食べる人や関わる人など、それぞれの心を豊かにしていく絶品かき氷。その周りには自然と人の輪ができて、それが形となって新しいチャレンジが生まれている。その面白さやこだわりの強さが、今までにない飲食店を生み出すパワーの源なのかもしれない。
SETOUCHI HIDAMARI KAKI-GORI 鷺沼店
住所:神奈川県 川崎市宮前区鷺沼2-13-17
電話:非掲載
営業時間:12:00~18:00
定休日:不定休 ※SNSで発信
https://www.facebook.com/setouchihidamarikakigori/
(取材&文・岡本ジュン 撮影・マツナガナオコ)