The Food Crafter

2018.11.16

ミツバチが育んだ
“第3のみつ”って何?

埼玉県秩父では、以前から豊かな森林環境の再生をはかり、地域の活性化を目指した取り組みが進んでいる。そのひとつ、カエデの樹液からできるメープルシロップのプロジェクトは知られているが、最近では「第3のみつ」のプロジェクトも進行中という。そこで今回はネーミングもミステリアスなこの「第3のみつ」をご紹介。

 

 

地元秩父で展開される

『第3のみつ』プロジェクト

 

埼玉県秩父市。都心からさほど遠くない自然豊かなこの地域で、ちょっと面白い活動をしている人がいる。それがTAP&SAP代表の井原愛子さんだ。

TAP&SAPでは、今話題になっている第3のみつを使った『秘蜜』という商品を扱っている。

 

第3のみつとは、ミツバチに果汁や野菜のジュースを与えてできたもの。名前の由来は、はちみつの国際規格において「花はちみつ」または「花蜜はちみつ」と 「甘露はちみつ」という2つのはちみつがあることに由来する。このどちらにも当てはまらないため、第3のみつと名付けられたという。

 

 

話題の第3のみつを使った『秘蜜』。フレーバーは現在4種類。いちばん右は『秘蜜』をつかったキャンディ

 

 

「第3のみつは、ミツバチにメープルシロップを

与えてみたことから始まったんですよ。

最初に与えたのは、

採取の際に、後半に採れるカエデの樹液から作られた

ダークな色のメープルシロップだったそうです。

だから、第3のみつはメープルシロップの活動が生んだ副産物でもあるんです」

 

もともと秩父では1999年から、全国に先駆けて、メープルシロップに代表されるような、カエデの樹液を素材とした製品の開発を行ってきた。

 

 

秩父産のカエデの樹液を使った商品も充実。左から『天然カエデ樹液100%』756円、『メープルサイダー』300円、『秩父産メープルシロップ』3240円。

 

 

「そこからだんだん発展して、リンゴやバナナなどの果汁を

与えたらどうなるのかという、実験が始まりました。

地元の秩父農工科学高校やNPO秩父百年の森、

そして埼玉大学との共同研究の成果なんです」

 

 

『秘蜜』は井原さんが手がけるカフェ「MAPLE BASE」にあるショップで販売している。

 

 

いったん外に出たから

地元の素晴らしい活動に注目できた

 

井原さんは埼玉県秩父の出身。大学時代も実家で過ごしていたが、その当時は全く地元の活動を知らなかったという。その後、海外留学を経て、外資系家具販売企業に就職。販売から企画・プロデュース業務などさまざまな職種を経験した。

 

そんな井原さんが地元に戻るきっかけになったのは、地元の森林保護活動に感化されたことがきっかけだった。

 

「ちょうど30代になって、このまま同じ会社で

ずっと同じ仕事を続けていいのかなという迷いが出てきた頃でした。

そんな時に地元秩父で森林保護の活動があることを知って、

エコツアーに参加してみたんです」

 

 

山と街をつなぐ秩父の地域プロデューサーとして活躍する井原さん。

 

 

地元で熱意ある活動をしている人達がいる。井原さんは参加したエコツアーで、大きく心を動かされた。そこから思い切りよく会社を辞めて、秩父へ帰ろうと決心するに至る。

かなりな急展開だったが、迷いがなかったわけではない。

 

「会社も仕事も大好きだったので、いざ辞めるとなったら悲しくて(笑)

でも、この仕事をするなら今しかない! という思いにつき動かされたというか」

 

メープルシロップや第3のみつに関わっている人たちは、生活のための本業は別に持っていた。ところが、井原さんはそれをいきなり仕事にしようというのだから、周囲から反対されるのも無理はない。

 

井原さん自身も心配はあったものの、心を決めてしまえばあとは一直線に突っ走るしかなかったという。

 

「まだ30代だし、もしもうまくいかなくても、

リカバリーできるかなって」(笑)

 

 

「MAPLE BASE」にあるカフェのカウンター。メニューも豊富で、『秘蜜』も味わえる。

 

 

当時、このプロジェクトに関わっていたのは主に男性だったそう。そこで、若い女性向けの商品開発に向いた井原さんの登場は風向きを変えるいいきっかけになったという。

 

カエデの樹液を使った商品は、それまで土産もの屋などでなんとなく売られていた。それをます、女性向けのパッケージにすることで付加価値を引き上げたという。第3のみつは『秘蜜』というブランドにすることで、女性目線のメディアに取り上げられるようになった。

 

『秘蜜』の魅力は、ミツバチに与える果汁や野菜ジュースのフレーバーをナチュラルに付けられるところにある。今はりんごやバナナ、人参、トマトとなどが製品化しているが、引き続き相性がいい素材を研究中とか。そのバリエーションは広く、パティシエにも素材として注目されるなど、可能性はまだ未知の領域だ。

 

 

「MAPLE BASE」にある吹き抜けになった明るいカフェ。テラスも気持ちいい。

 

 

秩父ミューズパーク内に日本発のシュガーハウス「MAPLE BASE」。

 

 

現在日本で流通する国産ハチミツのシェアは約5%。

そんな厳しい現状を変えたいと、『秘蜜』は国産の素材にこだわっている。使用する果物や野菜は、一般流通では廃棄されてしまう規格外品だ。

 

ミツバチが花から蜜を運ぶハチミツは、花のある場所へ移動しなければいけないこと、人家にあまり近くてはいけないことなど、なかなか厳しい状況にあるそう。でも、『秘蜜』のように果汁を与えるのであれば、人家のない森の中に定住して養蜂することもできる。

 

「そうすることで森の活用や地域活性に

繋がればいいなと思っています」

 

植樹やエコツアーなど、森林の大切さを知ってもらう活動も続けているというTAP & SAP。今後、第3のみつがどういう方向性を進んでいくのか、周囲の期待は厚く、様々な分野から新しい提案が舞い込んでいる。

 

 

 

 

MAPLE BASE

メープルベース

 

住所:埼玉県秩父郡小鹿野町長留1129-1 秩父ミューズパーク内

電話:0494-26-6150営業時間:10:00~17:00

定休日:水曜日

http://tapandsap.jp/

 
※掲載価格は税込価格です(2018年11月現在)
 
 
PROFILE  岡本ジュン

“おいしい料理とお酒には逆らわない”がモットーの食いしん坊ライター&編集者。出版社勤務を経てフリーに。「食べること」をテーマに、レストラン、レシピ、旅行などのジャンルで15年以上に渡って執筆。長年の修業(?)が役に立ち、胃袋と肝臓には自信あり。http://www.7q7.jp/