パリとアート

2018.12.17

芸術家たちが描いたキング・オブ・ポップ
Michael Jackson – On the Wall

Mark Ryden « The King of Pop » (#135)[«Le Roi de la Pop» (#135)] [détail] 1991-2018 91.4 x 91.4 cm Acrylique sur panneau, sculpture sur bois Collection particulière

 

「キング・オブ・ポップ」として、米国のみならず世界に君臨したマイケル・ジャクソン。その才能、たぐいまれなるスター性は、音楽シーンに新しいインパクトを与えつづけ、今もなお世代を超えて人々に愛されている。彼が生きていれば、2018年はちょうど60歳。この記念すべき年にマイケル・ジャクソンをテーマにした展覧会『マイケル・ジャクソン  オン・ザ・ウォール』がヨーロッパを巡回中。2月14日までは、パリのグラン・パレで開催されている。

 

 

© Rmn-Grand Palais / Photo Didier Plowy

 

 

「人類史上最も成功したエンターテイナー」としてギネスブックにも認定されるマイケル・ジャクソン。その存在は、世界の観衆はもちろんのこと、数々のクリエイターや美術家にも多大なインスピレーションを与えてきた。

 

楽曲のすばらしさは言うまでもないが、黒人で初めて世界スターになった彼の姿形、ムーンウォークに象徴されるダンス、コスチューム、あるいはしぐさ、そして叫び声まで。本人がいなくてもそれだけで彼とわかるアイコンを、これだけ持っている人間も他にはいまい。

 

この展覧会はまさに、そんな彼に影響を受けた、あるいは彼にオマージュを捧げた世界の芸術家たちによる、絵画、ドローイング、彫刻、写真、映像など121点の作品が主役の展覧会だ。

 

 

展覧会の冒頭ですぐに目を奪うのは、やはりアンディ・ウォーホールによるシルクスクリーンのマイケルだろう。

 

 

Andy Warhol Michael Jackson 1984 Acrylique et encre sérigraphique sur toile 76,2 x 66 cm
The Andy Warhol Museum, Pittsburgh; Founding Collection, Contribution The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. © The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / Licensed by Adagp, Paris, 2018

 

 

アメリカのニュース雑誌「TIME」がウォーホールに依頼して、1984年3月号の表紙を飾るビジュアルとして依頼したのが、この作品。彼は色の異なる数点を制作し、実際の表紙に採用されたのは、背景が黄色のものだった。

 

1984年といえば、マイケルが1982年に発表した金字塔のアルバム『スリラー』が第26回グラミー賞で「最優秀レコード」をはじめ驚異の8部門受賞を成し遂げた年。まさに絶頂の極みにいたスターの格を見せる作品だ。

 

 

David LaChapelle American Jesus : Hold Me, Carry Me Boldly 2009 Tirage couleur chromogène 248.9 x 188 cm (encadré) Avec l’aimable autorisation de l’artiste © David LaChapelle

 

 

マイケル・ジャクソンは、イタリア・ルネサンスの芸術家ミケランジェロを崇敬していたという。「もし1時間だけ誰か、過去の人でも現在の人でも、会って話ができるとしたら誰か?」と問いかけるジャーナリストを前に、彼はこう語った。

 

「たぶんミケランジェロ。彼は素晴らしいアーティストだ。批判にさらされながらも、彼が何を成し遂げようとしたのか僕には理解できる。正真正銘の芸術家だよ。静かに彼と向かい合って話してみたいものだね」

 

数々のハリウッドスターや歌手を撮影してきた写真家デイヴィッド・ラシャペルは、マイケル・ジャクソンをまるでこのミケランジェロの『サン・ピエトロのピエタ』のマリアに抱かれるイエス・キリストのように描いた。2009年、マイケルの突然の訃報のあとで構成されたこの作品は、もはや伝説となった彼を象徴しているかのようだ。

 

 

映像作品も多い。マイケル・ジャクソンファンとしてついつい見入ってしまったのが、南アフリカ生まれの映像作家キャンディス・ブレイツの『King』。

 

 

© Rmn-Grand Palais / Photo Didier Plowy

 

 

暗く細長い部屋に16の画面がずらりと並び、そこに16人の人々が映っている。彼らは新聞やインターネットを通じて募集された、熱心で純粋なマイケル・ジャクソンファン。一人ずつ部屋に入り、そこにアルバム『スリラー』全曲をかけ、それに合わせ、人目を気にすることなく歌い、踊り、叫ぶのだ。本気の物まねもいれば、静かに身体を動かし、ときどき歌うだけという人もいる。

 

画面を見る我々に、音楽は聞こえない。ただ彼らの歌声と「フオォ」とか「アウッ」という声がアカペラで響くのだが、16人いると十分に曲が成立するから不思議だ。自分たち観客の頭の中に流れる音楽とともに、そこにはいないマイケル・ジャクソンの存在が浮かび上がってくる。

 

映像の長さは、まさしくアルバムと同じ約42分。ファンならばつい感情移入して、全曲分見てしまいそうだ。

 

 

© Rmn-Grand Palais / Photo Didier Plowy

 

 

© Rmn-Grand Palais / Photo Didier Plowy

 

 

展覧会のタイトル『ON THE WALL』の言葉は、もちろんあの鮮烈な「フウォウ!」の叫びで1曲目が始まる、彼のソロデビューアルバム『OFF THE WALL』が起源。ステージではなく、「壁の上」で、それぞれのアーティストによるさまざまなマイケル・ジャクソンが展開されるのだが、そのすべてに通底するのは、彼に向けられた作家たちの絶対的な愛だ。

 

人生のどこかで一度でもマイケル・ジャクソンを愛した人なら、きっと夢中になってしまう、ちょっと変わったマイケル体験。パリのあとは、2019年の春から夏にかけてドイツ・ボン、秋から冬にかけてフィンランドと巡回する。ぜひ旅行先で出会ったなら、彼が世界に与えた影響をあらためて感じてみてはいかがだろう。

 

 

 

Michael Jackson – On the Wall

Grand Palais, Galerie sud-est

2019年2月14日まで

月曜・木曜・日曜 10:00 – 20:00

水曜・金曜・土曜 10:00 – 22:00

火曜定休

(12月24日および31日は18:00閉館)

 

 

Text : 杉浦岳史/ライター、アートオーガナイザー

コピーライターとして広告業界に携わりながら新境地を求めて渡仏。パリでアートマネジメント、美術史を学ぶ高等専門学校IESA現代アート部門を修了。ギャラリーでの勤務経験を経て、2013年より Art Bridge Paris – Tokyo を主宰。現在は広告、アートの分野におけるライター、キュレーター、コーディネーター、日仏通訳として幅広く活動。

 

 

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