パリとアート
パリに文化の秋の始まりを告げる
メゾン&オブジェ、デザインウィーク。
9月上旬、夏のバカンスシーズンが終わって活気を取り戻し始めたパリにエンジンをかけるのは「Design Week デザインウィーク」。パリといえばオートクチュールやプレタポルテのショー、いわゆる「パリコレ」にあわせた年4回の「ファッションウィーク」が有名だが、デザインやインテリアのジャンルではこの時期を目指して世界中から人々が乗り込んでくる。
そのシンボルとなる存在が「Maison & Objet メゾン・エ・オブジェ」というビッグイベントだ。インテリアデザイン、そしてライフスタイルの国際展示会。家具、オブジェ、建材、クリエイターズクラフトまで、その名の通り、暮らしとデザインに関わるあらゆるプロダクトとクリエイションがパリに集結。わずか5日間の期間中に、インテリアデザイナ-、建築家、セレクトショップのバイヤー、ジャーナリストなど約9万人ものプロフェッショナルが訪れ、最新のトレンドにアクセスする。
単に商品を見せるだけではなく、デザインやクリエイションの力で暮らしをより豊かなものにするためのインテリアやアイテムのプレゼンテーション。フランス語には「Art de vivre」という言葉があって「生活美学」などと訳されるが、そんなアーティスティックで豊かなライフスタイルをカタチにするための提案がここに詰まっているといってもいい。
パリの玄関口となるシャルル・ド・ゴール国際空港にほど近い「ヴィルパント」にある会場の総面積は約242,000㎡。東京ドームの5倍以上もあるエキスポスペースをすべて使用する壮大なプロジェクトだ。
あまりの壮大さゆえに、目的地になかなかたどり着けない。という声さえあるなか、今年は、会場構成を大きく変えて「Maison メゾン」と「Objet オブジェ」の2ブロックに再編成した。
インテリアデザイナーや建築家などに向けた「メゾン」カテゴリーは、アートディレクションコンサルタントで、カッシーナ・ジャパンとのコラボレーションも手がけたフランソワ・デクロー氏。そして、ショップバイヤーなどに向けた「オブジェ」カテゴリーは、パリで一大ブームを巻き起こし、女性たちを中心に世界から注目されるセレクトショップ「Merci メルシー」の創設者、ジャン=リュック・コロナ・ディストリア氏がディレクションを担当。たとえば「メゾン」であれば、「FOREVER 永遠」「TODAY 今」などそれぞれいくつかのカテゴリーに分けられて、展示される。類似したジャンルが比較的近いのでビジターにはわかりやすい。
「FOREVER」は、その言葉の通り色褪せないスタイル。クラシカルなものからそれを新しいスタイルで甦らせたものなど、その表現もさまざまだ。
「TODAY」は対照的にコンテンポラリーなテイストをもったラインナップが並ぶ。最近の傾向なのか、奇抜というよりはシンプルで等身大のデザインが多く感じられた。
「メゾン」カテゴリーのもう一つのテーマは「UNIQUE & ECLECTIC」。そのオリジナリティが評価されたブランドを集めたスペース。ここでは毎年ビジターの心をつかむ展示で人気があるベルギーのインテリアメーカー「Sempre センプレ」が今年もやってくれた。植物をふんだんに使って総合的な空間演出を提案、モダンなデザインと心地よさが共鳴する。
わずか5日間のショーだが、それにかける各企業のパワーは並大抵ではない。ヨーロッパのみならず、アメリカ、アジア、中東など五大陸すべてから集まるバイヤーや建築・デザインの専門家、そしてジャーナリストたちの目を印象づけなければいけないのだから、力も入るというものだ。
そんな中、目を惹くスペースは、会場の中央に位置する「クラフト」のゾーンだ。ここはフランスを中心にした職人やクラフトワークのプロフェッショナルたちのブース。ガラス、陶器、金属、テキスタイルなどあらゆる素材を使ったクリエイターが、工業製品にはできない創造性あふれるプロダクト、作品を発表していて人気を呼んでいる。
この「クラフト」ゾーンで出会ったGala Greenwood ガラ・グリーンウッドは、ブリュッセルを拠点にするフランス人。ベネチア、アメリカなど世界各国のガラスなど多様な素材を使ったモザイクで作品を構成する。もともとはフルート奏者、そしてパリ・オペラ座のトップバレエダンサーを撮っていた写真家でもあったが2014年にモザイクアーティストに転向。自身の写真をモザイクのモチーフに活かしたり、現代アートの要素を採り入れたりと、独自の表現で新しい境地を拓く。
同じくフランス人のデュオクリエイター「アナトミー」は、針金による立体オブジェの職人だ。卓越したセンスで精緻かつ詩的な作品をつくっていたアンナ、電気・音などを使った機械仕掛けの名手で現代美術家などともコラボレーションをしていたオリヴィエの二人で結成。ミニスカートの裾が光るおしゃれなランプや、フレームに触れると自分を褒めてくれる鏡、デュークボックスのように次から次と名曲が流れる針金の蓄音機など、職人の領域を超えたユーモアあふれる作品で人気を集める。
世界のメーカーが競う暮らしの中のデザインはもちろんのこと、こういったクリエイターの多様なセンスや世界観が見られるのはこの「Maison & Objet」ならではといえるかも知れない。次回は2019年1月のエディションとなる。
Maison & Objet 2018 Paris メゾン&オブジェ2018
(会期終了)次回は2019年1月18日〜22日
Paris Nord Villepinte
ウェブサイト https://www.maison-objet.com
杉浦岳史/ライター、アートオーガナイザー
コピーライターとして広告業界に携わりながら新境地を求めて渡仏。パリでアートマネジメント、美術史を学ぶ高等専門学校IESA現代アート部門を修了。ギャラリーでの勤務経験を経て、2013年より Art Bridge Paris – Tokyo を主宰。現在は広告、アートの分野におけるライター、キュレーター、コーディネーター、日仏通訳として幅広く活動。