アーティストインタビュー
「Maison Hermes Ginza Window」。銀座のメゾンエルメスのウィンドウを飾った作品。2007年。
©Nacasa & Partners Inc. / Courtesyof Hermes Japon
ことばをつなげていくインスタレーションで
慶応大学の学生と「制作プロセス」を共有する
――11月14日から21日まで、慶應大学の日吉キャンパスで公開ワークショップを開催されています。どのような内容なのでしょうか?
『ことばの森』というインスタレーションを展示します。慶應大学日吉キャンパスで学生さんたちと一緒に半年ぐらいかけて制作をしていて、来場者の方にも参加していただきながらつくりあげていくワークショップ型の作品です。
ことばやメッセージは、ネットのなかだけでなく実社会でもエネルギーを伝播し勝手に育っていきます。今回は、それぞれのことばや文章を慶應の茶封筒に書き、切り出した文字を布に縫いつけてつないでいます。「幹」になる文章に参加者が次々にことばの「枝葉」をつけていくことで、“ことばや表現がどう伝播していくか”を可視化し、空間構成で表現が育って森となる感じになってます。
このワークショップは授業の一環で行っているもの。いずれ美術関係に関わる職種につく可能性のある学生のために、制作者について理解を深め、美術について考えるプロジェクトとして、9年間続いているそうです。
今年、声をかけていただいたので、「制作プロセスを共有してもらって、美術とはさまざまな角度からさまざまな方法で取りくむことという実験的なワークショップ」として、『ことばの森』をスタートさせました。
一概に言語だけでは表現し得ないものを
さまざまな記号で伝えることで「創作」していく
――2年前には短編小説『おやすみなさい。良い夢を。』も出版されました。アート、デザイン、工芸、プロダクト、小説など、幅広い分野で活動を続けていますが、ミヤケさんにとって「創作」とは?
ことばだけでは伝えきれない物語を、さまざまな物から抽出して、わたしなりの手段で伝えることが、わたしにとっての「創作」です。「伝えたいこと」は、見たり聞いたり誰かと話したりしたことから生まれることもありますし、わたし自身の内側から湧いてくることもあります。
わたしのなかでは、「ある記号を介して人に何かを伝える手段」という意味で、絵もプロダクトも小説もあまりかわりないものとして捉えています。
文章は記号ではないのではないか、と思われるかもしれませんが、象形文字から生まれた漢字はミニマルな記号の一種だとわたしは考えています。出版した小説も、ストーリーだけでなくブックデザインも含めて、日頃自分が作品を制作するときのコンセプトと連動したものをつくりました。
何度も何度も読み返すとページとページのあいだが開いてきて、そこではじめてお話とリンクした色に気がつく。時間をかけ、注意をはらっていないと見えてこない装丁になってます。
これからも、与えていただいた機会は大切にしたいと思います。プロダクト、アート、文章などメディアの垣根を設けないのは、たまに買いかぶっていただく「多才だから」ではまったくなく、伝えたいことを目の前にある素材を使って表現していきたいから。
いままでもこれからも、さまざまなカタチで言語化できない物語を紡いでいきたいと思っています。
2年前には短編小説『おやすみなさい。良い夢を。』
(講談社)をペンネーム三山桂依で発表。
3冊目の作品集になる『膜迷路』(羽鳥書店)。
ミヤケマイ/美術家
横浜生まれ。日本独自の感覚に立脚しながら物事の本質を問う作品を展開。画廊や美術館、アートフェアでの展示のみならず、エルメスなど企業とのコラボレーション、本の装丁、執筆など活動は多岐に渉る。2008年奨学金を得て、パリ国立美術大学大学院に留学。『おかえりなさい』(村越画廊)、『ココではないドコか』(芸術新聞社)、『膜迷路』(羽鳥書店)の3冊の作品集がある。また短編小説『おやすみなさい。良い夢を。』(講談社)を2011年に上梓。
慶應大学・公開ワークショップ(日吉キャンパス)
会期:2012年11月14日~11月21日(日曜休館)
時間:11:30 am-5:00 pm
会場:慶應大日吉キャンパス 来往舎ギャラリー
神奈川県横浜市港北区日吉4-1-1
http://www.keio.ac.jp/ja/access/hiyoshi.html
主催:来往舎現代藝術展9実行委員会
クリエイター:ミヤケマイ