アーティストインタビュー

2019.04.05

「カリグラフィーを
人の心を揺さぶるアートに」
アートカリグラファー
ヨウコ フラクチュールさん

文字を美しく書く手法であるカリグラフィーをアートへ昇華したヨウコ・フラクチュールさん。日本で徐々に広まっているカリグラフィーの魅力、そして空間デザイナー兼アートディレクターである雲野一鮮さんとのデザインユニット「フラウム」の活動についてお話を伺った。

 

 

ドイツで出会った作品が

運命を変えた

 

アートカリグラファーとして活躍するヨウコ フラクチュールさん

 

 

――最近は日本でも目にする機会が多いですが、カリグラフィーについて改めて教えてください。

 

ヨウコさん「ギリシャ語で“カリ”は美しい、“グラフィー”は書いたもののこと。簡単に言うと、『美文字』ですね。ヨーロッパでは古くからメッセージカードなどに使われていたのですが、最近ではSNSなどを通じて日本でも広まってきていますよね」

 

 

――なぜカリグラファーの道へ進まれたのでしょうか。

 

ヨウコさん「もともとはイラストが好きでイギリスで絵本の講座を受けていました。カリグラフィーも習ってみたのですが、ただきれいな文字を書くという講座で、その時はあまり魅力を感じませんでした。ドイツに移ってからロード・オブ・ザ・リングの蔵書を手掛けたアレキサンドラレメス先生の作品を見て感銘を受けて! これは文字じゃない、芸術だ、と」

 

――それでアレキサンドラレメス先生に師事を受けたんですね。

 

ヨウコさん「とても厳しい先生で、習い始めてすぐの頃『日本で先生になりたい』って言ったら、『ハッ』と鼻で笑われました(笑)。でもその後、カリグラフィーの奥深さを知って2年、3年とコツコツと積み重ね、先生に作品を持っていったら『オリジナルができたわね』って認めてくださったんです。そこから帰国するまで先生のお手伝いをしていたのですが、ある日先生が棚を開けて『資料を全部コピーしていいわよ』って。カリグラファーにとっては資料が命とも言えるくらいものすごく価値があるものなんです。嬉しかったですね。今となれば、先生が厳しかった理由がわかります。段階ごとに上があるんだよ、自分がまだまだだと知りなさいと教えてくれていたんだって」

 

 

ペン先が特殊なカリグラフィー用のペン。気に入ったものを海外から取り寄せている

 

 

 

 

カリグラフィーのライブパフォーマンス。相手の雰囲気に合った書体で名前を書いていく

 

 

――さまざまな作品がありますが、思い出深いものはありますか。

 

ヨウコさん「自分の教室の展示会用に作ったものですが、生徒さんの作品をすべて見たうえで自分はそれらとは違うものを作らないといけない…と。考え抜いてストイックに入り込んで制作しました。寒さに対して神様に温かくしてくださいと言わずに『寒さに耐えうる心をください』、という詩が書かれています。この詩に女性の強さを感じて、自分の気持ちも書きながらどんどん強くなっていきました。この作品に感動したと言ってくださる方が多くて、気持ちを込めた分パッションが伝わったんだと嬉しかったですね。

 

 

どの部分を切り取っても絵になる展示会用に描かれた作品

 

 

また、こちらは写真集の挿絵として書いたもので文章を組み合わせてバオバブの木をかたどっています。文字の形だけでアウトラインをとっているので、フォルムを考えながらきちんと左から右へと文章が流れるように細かく詰め込んでいます。これは師匠に習ったものではなくて自分のオリジナル。何か文字を使って遊べないかと考えて生まれたものです。

 

どの作品でも制作するときはどこかにおしゃれ感が欲しいと思っていて、常に都会的な大人の女性を意識しているんですが、これがその最たるものかなと思っています。雲野さんもそうですがこの作品を見て声をかけてくださったかたも多く、人との縁を運んできてくれる気がします」

 

 

オリジナルのスタイルが確立したのは帰国してから。写真は文字で構成されたバオバブの木

 

 

主役にも脇役にもなる文字で

様々なコラボ作品を展開

 

――最近はデザインユニット「フラウム」としても活動されていますね。

 

雲野さん「2018年6月にユニットを結成しました。以前にヨウコさんの文字を見て、素晴らしいと思ったのですが、聞くと原画は売れて手元にないものも多いと。それはもったいない、もっと多くの人に見てもらいたいと考えたんです。そのとき、ちょうど商業タイルの仕事の相談があってヨウコさんとコラボしたのがきっかけになりました」

 

ヨウコさん「アレキサンドラレメス先生からは常に『カリグラフィーはアートでなければいけない』と教えられていました。アートには芸術性と、多くの人に広めていく商業性と2本柱があると思うんです。作品そのものが売れるのはもちろんですが、作品を共有して買うことができるというのも一つの形。一人で活動していてもそこにたどり着けないので、空間デザイナーでアートディレクターでもある雲野さんに助けてもらっています」

 

 

ヨウコさんとデザインユニット「fRAum」を組む雲野一鮮さん(左)

 

 

――どういった活動をされていますか?

 

雲野さん「カフェやビルのエントランス、オフィスなどに、ヨウコさんの作品を取り入れています。カリグラフィーは新鮮に映るようで、反響は大きいですね。空間だけではなく、インテリアやファッション、アクセサリー、商品のパッケージデザインやプロダクトデザインなど、どんどん幅が広がっています」

 

ヨウコさん「文字は汎用性が高いので、いろんなものと組み合わせることができるんです。文字そのものが作品の主役にもなるし、ほかの作品の横に置くと、それを引き立てる脇役にもなる。それがカリグラフィーの大きな魅力でもあります」

 

雲野さん「最近では、最先端技術と手仕事を組み合わせ、コピー用紙よりもはるかに薄い有機ELを使った世界初となる作品を発表しました。これは『IDM TOKYO 2018』で賞も受賞しました。コニカミノルタの機能を見せたいという想いと文字を読ませることは、相性がよかったんだと思います。ディスプレイや広告に応用できないかと問い合わせがたくさんありました」

 

 

最先端の有機ELを使用し、光をアートに変えた

 

 

ヨウコさん「ファッションの分野では、岡山県の井原デニムとのコラボで、作品を刺しゅうしたデニムをパリのファッションの展示会『Tranoi』で披露しました。現地の方からも『これは何?誰が描いたの』という驚きの声をたくさんいただきましたね。カリグラフィーは海外では当たり前にあるものと思いがちですが、日本に置き換えてみると古い文化である家紋を描けと言われても難しいですよね。特殊な技術を身に着けた職人として驚きをもって迎えてくれました」

 

 

――今後の展望を教えてください。

 

ヨウコさん「今の日本人にとっては、上陸したばかりのものという印象だと思うんです。カリグラフィーの一部しか日本にまだきていない状態ですね。これからもっと皆さんにカリグラフィーの世界を知っていただきたいですし、キレイな文字を書く技術ではありますが伝達のためのものではなくアートとして世に出て行って欲しいと思っています。いま、デザインユニットを組んでいることによって、それが叶ってきていると感じます。文字に対する理解を深めていただけたら、その先にある『アートカリグラフィー』というものが見えてきます。絵では表現できない、字だけでも表現できない、文字と絵の両方を使って人の心を揺さぶる新たな表現を目指していきたいです」

 

 

 

 

ヨウコ フラクチュール

アートカリグラファー、作家、アーティスト。イギリスやルクセンブルグ・ドイツで長く暮らし、本場のカリグラフィー技術を学ぶ。絵のように表現するアートとしての「魅せるカリグラフィー」 の本物の技術と抜群のセンスは、唯一無二の存在である。 現在は銀座を拠点に自身のカリグラフィーサロン ’FRAKTUR’ を開き、アーティストとしての活動も積極的に行っている。 ARSscribendi ヨーロッパカリグラフィー協会会員。
https://fraktur.amebaownd.com

 

 

雲野 一鮮

空間デザイナー 、 アートディレクター。店舗、展示会、オフィス、ショールームといった商環境の空間デザイン、ディスプレイ、VMD等を中心に、領域は幅広く、メーカーの商品開発やブランディングも手掛ける。またボランティアや教育にも力を入れている。クモノデザイン株式会社 代表取締役 ・ 日本商環境デザイン協会正会員 ・ 日本空間デザイン協会正会員 ・ 日本ビジュアルマーチャンダイジング協会理事 ・ 日本ディスプレイクリエイター協会アンバサダー ・ 東京デザイン専門学校講師。

 

 

fRAum

fRAum は、ドイツ語の「文字 = Fraktur」と「空間 = Raum」を掛け合わせた造語。アートカリグラファーと空間デザイナーのデザインユニットとして始動。「文字 × 空間」「アート × デザイン」「手仕事 × 先端技術」をコンセプトとして、プロダクトや 空間におけるアートカリグラフィーの本質的価値を探る。

 

 

(取材&文・SUMAU編集部 撮影・古本麻由未)