アーティストインタビュー
「生産者とのつながりを大切にしつつ、食の実りに彩りを」 minoriiro主宰/フードデザイナー小口麻紀さん
武蔵野美術大学を卒業後、飲食店で調理経験を積み、2012年、自由が丘にオーガニックカフェ「fete cafe」をオープン。今年4月に独立してケータリングをメインとしたフードラボ「minoriiro」をスタートさせた小口麻紀さん。「ケータリングや料理教室を通し、生産者と消費者をつなぐ存在になりたい」と語る小口さんに今の思いをうかがった。
作り手の思いが伝わる
からだにやさしい旬の味を
――まずは、この道に入ったきっかけを教えてください。
もともとは空間デザインに興味があって、武蔵野美術大学の空間演出デザイン学科に進学したんです。そこで店舗の内装や演出を学ぶうち、調理や接客にも興味が湧いてきて、カフェをやりたいと思うようになってきた。それで大学卒業後、オーガニックカフェやマクロビレストランで調理経験を積んだんです。
そして、2012年、オーガニックカフェ時代に知り合い意気投合した湯本幸子さんとふたりで「fete cafe」を始めました。しかも物件を決めてから、約半年後にオープンという強行軍。とはいえ、前々からいろいろなカフェを巡りつつ、「私たちだったらこんな雰囲気にするのに」とか「こんなメニューを取り入れたい」といった話をよくしていたので、お店のイメージを固めるのも早かったですね。
――最初からケータリングをやろうと?
そうですね。ただ、まずはお店を軌道に乗せることを第一に考えていましたから、最初はカフェの営業に集中して、そこから徐々に私がケータリングに移行していった感じです。
――そもそも、どうしてケータリングをやりたいと思ったのですか?
お店って、お客さんにきてもらう形じゃないですか。でも私は、どちらかというと、自分から外に出ていきたいタイプ。外に出かけていって料理を提供することで、いろいろな人たちとの出会いやつながりを楽しみたい。それをできるのがケータリングだったんです。
――そして、今年4月、独立。ケータリングを主とする「minoriiro」を立ち上げられました。
はい。一昨年出産を経験して、約1年、育児休暇を取っていたのですが、それを機に独立を決意。“生産者の顔が見える、安心・安全な素材を使った、からだにいい食事”をモットーに、ケータリングをメインにしつつ、フードスタイリングや自宅での料理教室も始めました。
――「minoriiro」の名前に込めた思いを聞かせてください。
「minoriiro」とは、「実りを彩る」という意味。無農薬や自然栽培にこだわったお米やお野菜、調味料を使い、その食材たちに彩りを加えたい、という思いで名づけました。四季を感じられ、からだにやさしいごはんを提供したいので、添加物、保存料も使用しません。特に生産者さんとのつながりは最も大事にしていて、できる限り畑まで足を運び、自分の目と舌で確かめた食材を、信頼できる生産者さんから仕入れるようにしています。
――そうした生産者さんとのネットワークはどのようにして築かれたのですか。
「fete cafe」でも野菜の直接仕入れを行っているので、そこで知り合った方だったり、農業関係のイベントに出掛けて行ってつながりを持ったり……。ケータリングをきっかけに、おつきあいが始まることもあって、まさにケータリングが食と人の架け橋になってくれている感じですね。
――これまでで、特に印象に残っているお仕事があれば教えてください。
イベントのゲストスピーカーが野菜の生産者で、その方が作った野菜を使ってケータリングするという仕事があったのですが、それは今までとは少し違う感覚でした。生産者の方の前で、その方が作った野菜を使って調理するというのは、気持ちの入りかたもどこか違ってくるんです。
実はこの出来事が、生産者とのつながりを大事にしたケータリングをやりたいと思うきっかけにもなりました。ケータリングの仕事は不定期ですが、おかげさまで多くの生産者さんとつながっているので、その時々で採れる旬のものを、いろいろな生産者さんから直接送っていただけるのでありがたいですね。
――そして、そうした生産者の方々の思いをより多くの方に伝えていきたい、と。
そうなんです。生産者の方々は30〜40代といった同世代が多く、皆さん、強い思いで取り組んでいらっしゃるので、消費者との間をつなぐ仲介役として、より多くの方に、作り手の思いやその背景にあるストーリーを伝えていくというのも私の使命だと思っています。
たとえば料理カードに食材に関するキャプションをつけたり、説明の時間を設けさせていただいたり……。ケータリングの場を通じて、たくさんの方にその良さを発信していきたいんです。
日々新たなチャレンジができるのも
ケータリングの魅力
――ところで、具体的にケータリングってどのようなプロセスで行われているのでしょう。
お話をいただいたら、パーティやイベントのテーマやコンセプト、どんなお客様がいらっしゃるのかをうかがって、メニューやテーブルコーディネイトのプランをご提案します。いちばん重要な部分なので、このやりとりには特に時間をかけますね。メニューだけではイメージしにくいこともあるので、イメージ写真を探してお見せしたり、自分でイラストを描いたりもします。
――盛りつけや飾りつけも素敵ですが、アイデアはどんなところから?
クライアントさんとのお話の中で出てくることが多いですね。漠然としたリクエストの場合は、スタイリッシュなのかナチュラルなのか、また色はどんなものをイメージしているかなど、質問を繰り返し、相手の希望するイメージを想像しながら、プランに落とし込んでいきます。
――そして調理、コーディネイトまでと、幅広いですよね。
プランニングから、7〜8品の調理、テーブルコーディネイトにディスプレイ、お花のセレクトやアレンジ、サーブまですべて自分でやります。もちろん、途中途中でお手伝いをお願いしたりすることもありますが、基本はひとり。誰かに頼むと、一体感がなくなりますし、自分の思い描いているイメージは自分でしか表現できませんから。
でもね、毎回違うことができるので、苦にはなりません。むしろそれもケータリングの面白いところなんじゃないかな。その場で「わーっ、かわいい」という驚きの声や、「おいしい」の言葉を聞けるのも、やっていてよかった、と思える瞬間。喜んでいただけることが、なにより励みになりますね。
――お料理についてはどうでしょう。
和・洋・中といったジャンルにもこだわらず、テーマに合わせて何でも作ります。そのぶん、自分の料理の幅も広がりますし、日々いろんなことに挑戦できるのも醍醐味。定番は特にないんですけど、得意なのは、やはり野菜を使ったものかな。素材本来の味を感じられるような味つけや、野菜の彩りを大事にしたプレゼンテーションにもこだわっています。なんてったって“minoriiro”ですから(笑)。
――ケータリングという面で、ほかに心掛けていらっしゃることはありますか。
冷めてもおいしく食べられること、あとはひと口で食べられるよう、サイズ感も気にしています。会の趣旨によって料理も演出も変わってくるので、クライアントさんとの打合せは、時間をかけて密に行うようにしています。また、食べ物なので衛生面での配慮も怠りません。
――インプットも大事だと思いますが、オフの時間はどんなことを?
もともとカフェ好きなので、カフェ巡りが多いかなぁ。実際の店舗で学ぶこともすごく多いんです。料理はもちろん、提供の仕方とか。いま何が流行っているのか、トレンドは常にチェックしておきたいので、SNSで話題になっているお店を始め、ジャンルを問わず、いろんなお店に行くようにしています。
――それにしても美大出身というのは異色ですよね。
そうですか? でも大学で学んだ空間デザインは、大いに役立っていると感じます。ケータリングはお料理だけでなく全体のデザイン、どのお皿を使うのか、テーブルクロスはどうするのかなど、トータルなデザインが求められるので、その点でも大学で学んだことが生かされていると感じます。ひと口に空間デザインといっても幅広く、店舗や住空間だけでなく、ファッションショーや舞台のデザインもやったりしましたから、その時の経験もプラスになっていますね。
子育てママのための料理教室や
マイ畑づくりなど、さらに夢は広がる
――独立後は、お料理教室にも注力していきたい、とうかがいました。
わたしには1歳になる娘がいるのですが、同じような子育て中のお母さんたちに向けての料理教室も、やりたかったことのひとつでした。わたし自身、実際に母親になってみて分かったのですが、子育て中って、ホントに時間がない。ですから、作り置きや時短調理のレシピ、さらに、からだに優しい食材の選び方や活用法についても、お話できたらいいなと思っています。自宅なので、お子さん連れも大歓迎。子供どうしを遊ばせながら、アットホームな雰囲気でやっています。
――子育てとお仕事の両立、大変では?
確かに大変ですけど、時間がないからこそ、集中できる部分がある。あと一時間でお迎えに行かなきゃ、と思えば、逆に集中して効率よくやれることが分かりました。
――ところで、「SUMAU」の読者の中には、ホームパーティーをされる方も多いと思うのですが、なにかコーディネイトのアドバイスなどあればお願いします。
まずは全体のテーマを決めること。ナチュラルな雰囲気にしたいなら、木の素材のものを多く取り入れるとか、クールにしたいならガラスをいっぱい使ってみるとか。雰囲気に合わせて素材を選ぶと統一感がでます。あとは、なんとなくでいいので、カラーのテイストを決めること。使う色は3色程度に絞るのがおすすめです。
――今後の目標についても教えてください。
ケータリングはもちろん、「食育」にはもっと力を注いでいきたいと思っています。そうしたクラスも今後増やしていけたら、と。そしてその先は、夫の実家が長野で畑を持っているので、そこで育てた野菜を使った自給自足の生活だったり、食事を提供するカフェができるといいなぁと思っています。
食べ物の大切さに気づくと、作られている現場はどうなっているのか気になるじゃないですか。そして現場に行くと、今度は自分でやりたくなる……。夢は広がるばかりです(笑)。そしてそんな夢とともに、自分の人生を自分らしく、最高に楽しむためにも、今は、「minoriiro」の活動を一所懸命やっていこうと思っています!
(文・原口りう子 写真・古本麻由未)
取材協力
fete cafe(フェテカフェ)
自由が丘駅から徒歩10分程の場所にある隠れ家カフェ。温かみのあるアットホームな雰囲気のなか、安心・安全な食材を使ったこだわりの自家製メニューが味わえる。パン作りや果実酒作り、麻かごbagのタッセル作りといった少人数制のワークショップも定期的に開催(テーマはその時々で異なる)。
住所:東京都世田谷区奥沢5-37-9
電話:03-6715-6248
営業時間:10:00~17:00(月・水・木・日曜)、11:00〜21:00(金・土曜)
定休日:火曜
メニュー: (モーニング)有機玄米おにぎりプレート850円、自家製グラノーラがけヨーグルトプレート570円、(ランチ・ディナー)フェテカフェご飯1,160円、きまぐれ丼1,250円、(ティータイム)自家製ケーキ+ドリンク800円〜ほか。※すべて税抜き
HP : http://fete-cafe.com/
小口麻紀(おぐち・まき)さん
神奈川県横浜市生まれ。武蔵野美術大学を卒業後、都内のオーガニックレストランやカフェで経験を積み、2012年、自由が丘に「fete café 」をオープン。2018年4月に独立し、ケータリング、フードスタイリング、料理教室などを行う「minoriiro」を立ち上げる。
Instagram : @maki6215