アーティストインタビュー
大学の卒業制作も、山海経(せんがいきょう)という昔話をテーマにした作品(「山海経」2005年)は4m近い大作だったので、1年間文字を書き続けました。書道科の卒業制作としては異例な作品だったのかもしれませんが、書のジャンルには入らないのではないかと言われたりしました(笑)。
制作にあたっては自分の気に入ったストーリーを選んでカタチにしていきます。まず文章のもつ面白さに興味を持ってイメージを膨らませながらカタチにして、そのストーリーを画賛するような感じで作品に毛筆で書いていく。だから選ぶ文章で作風も大分変わってくるんです。
日本における人間と動物、自然との関係を
現代アートの作品で伝えていきたい
――初めての個展名が「イキモノ譚(ばなし)」としていることもあって、動物をテーマにしている作品が多いですね。
最新作の「牛の報恩」は、牛をテーマにしていて、これも地方の昔話(牛の恩返し)を題材にしています。ある子どもがいない夫婦がいて、ダンナさんが一匹の赤牛を助けてあげるんです。するとその赤牛が言葉をしゃべって、恩返しをするから自分を奥さんに食べさせなさいと言うんですね。そうすると、その言葉どおり子どもを授かるという悲しい話です。
この昔話をカタチにすると、私の中ではこうした表現になったわけです。上半身の赤い毛皮は赤牛を表し、下半身は子どものカラダを表しています。子どものカラダに物語の文字をびっしり書き込むことで、この昔話を自分なりに表現したつもりです。
「狐女房」という作品も、千年を経た白狐が女性に化けて男性のところへ恩返しに来る設定です。千年の時間の長さを表すために、麻布の服には12万字もの文字を書き込んで、作品の大きさは3m近くなりました。作品のスケールもだんだん大きくなってきて、最近は制作するのにも体力が勝負になっています(笑)。