WHISKY CHASER
体の芯から暖まりたい
冬こそウイスキー
ウイスキーには季節ごとに美味しい表情がある。寒い季節には、味も香りも個性が強く、ほのかにスパイスを感じるスコッチウイスキーがおすすめ。ストレートで飲むだけでなく、深い世界観を持つウイスキーカクテルで冬ならではのウイスキーの魅力を引き出してみたい。
今夜ウイスキーがあったらなら◇第5夜
冬に飲みたいウイスキーカクテル
鍵を握るのはベースのスコッチ
上質なウイスキーはストレートで楽しむもの。でも、ウイスキー入門編やちょっと目先を変えたいときには、カクテルでその美味しさを味わうのもまたよし。
そこで今回は寒い季節だからこそ飲みたい冬のウイスキーカクテルを、北千住のバー ドランブイの梅本裕基さんに教えてもらった。ウイスキーに造詣が深く、カクテルが美味しいことでも定評がある梅本さんだが、もうひとつ特筆すべきなのはグラスのコレクション。オールドバカラから現行品まで、バカラで埋め尽くされたバックバーを眺めるだけでも、バーカウンターに座る価値があると思えるほどだ。そんなバカラグラスと共に提供される至福のカクテルを紹介しよう。
「冬におすすめのウイスキーのカクテルを」とお願いすると、梅本裕基さんは4つの異なるタイプのカクテルを披露してくれた。
「温度帯は冷たくても、ウイスキーの持っている深い味わいやアルコールのボリューム感で体の中から自然に温まるようなカクテルを考えました」と梅本さん。
冬のウイスキーと言えば、安易にホットウイスキーなどを想像しがちだが、梅本さんが選んだのはこちらの思惑を気持ちよく飛び越えた至福の4杯だった。
冬のオススメ ウイスキーカクテル1 『マミーテイラー』
スコッチウイスキー×ジャンジャーエール×フレッシュレモンジュース
まず、最初の一杯におすすめしたいというのは、別名スコッチバックと言われる『マミーテイラー』。ロングカクテルなのでアルコール度数はそれほど高くなく、レモンジュースの酸味とジンジャーエールの炭酸がきいて軽やかだ。
「こちらは最初の一杯でもいいですし、ウイスキーをストレートで楽しむ時に、間に挟んで飲んでもいいですよ」。
このカクテルのために選んだスコッチは、ジョニーウォーカー ゴールドラベルリザーブ。モルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドするブレンデッド・スコッチウイスキーだが、ゴールドラベルは、通常のレッドラベルやブラックラベルと比べて、ブレンドされているモルトウイスキーの比率が高いというプレミアムな銘柄。
「ジョニーウォーカーは世界で1番売れているブレンデッド・スコッチウイスキーです。もちろんストレートで飲んでもいいですし、オン・ザ・ロックにするオレンジのような柑橘系の香りが出てきます。また、水を加えると木の香りや少しだけスモーキーな香りが現れます。どんな飲み方にも対応ができて、また飲み方によって表情が変わるところが魅力です」。
梅本さんはカウンターに大ぶりのグラスを用意すると、氷の上からゴールドラベルをそっと流し入れた。氷のラインに沿って、琥珀色の液体が落ちていく姿はドラマチックな効果を生み出している。続いてジンジャーエールをゆるやかに注ぐ。ウイスキーは比重が軽く、ジンジャーエールは比重が重いため、こうすることで自然と対流して混ざり合うという。かき混ぜないので炭酸が抜けることもないテクニックだ。
繊細なエッチングが施されたグラスは『アンペラトール』。爽やかなカクテルでもあるが、ベースのウイスキーを軽いものではなくしっかりとした深い味わいがあるものを使うことで、寒い季節らしい飲みごたえのある仕上がりになっている。
冬のオススメ ウイスキーカクテル2 『ロブ・ロイ』
スコッチウイスキー×ビターズ×スイートベルモット
有名なカクテル『マンハッタン』は本来カナディアンウイスキーで作られる。そのベースをスコッチウイスキーに変えたものが『ロブ・ロイ』だ。
梅本さんが使ったスコッチウイスキーは、飲みやすくエレガントなロイヤルロッホナガー。そこにリッチな味わいのスイートベルモット『アンティカ フォーミュラ』を加えるのが作戦だ。
「このカクテルは、夏場に注文されたらブレンデッド・スコッチウイスキーをベースにすることが多いのですが、寒くなってくると、個性的で味わいがしっかりしたシングルモルトでお作りしています。ロイヤルロッホナガーは比較的スムーズで飲みやすいスコッチウイスキーですが、スイートベルモットを樽で熟成させた『アンティカ フォーミュラ』を使うことで味に深みを出しています」
王室御用達の”ロイヤル”を授与された歴史ある蒸留所で造るロイヤルロッホナガーは上品で後味がすっきりしているので、口当たりがよくさらりと飲めてしまう。
グラスは約120年前のオールドバカラ『エイコーン』。どんぐりのエッチングが秋冬をイメージさせる。
冬のオススメ ウイスキーカクテル3 『サイレント・サード』
スコッチウイスキー×コアントロー×フレッシュレモンジュース
「スコッチウイスキーで作るサイドカーです」と梅本さん。
ベースをラフロイグの10年にしているので独特のスモーキーな香りが立ち上る。ラフロイグは、ヨード臭が特徴的なアイラモルトの代表選手。強烈な個性に初心者はひるむことも多いが、なぜかハマってしまう愛好者は多い。
「ラフロイグの持っている個性的な香りや味わいは寒い季節に合うと思います。これはベースのウイスキー、オレンジの香りのコアントローの甘み、レモンジュースの酸味という基本的なカクテルの要素が揃っているカクテルで、最後に、ラフロイグのスモーキーな香りの余韻が長く続きますよ」
バカラのアイコン的存在『アルクール』のワイングラスに、カクテルの鮮やかな色がよく映える。かなり個性の強い香りだが、アイラ好きにはおすすめのカクテルだ。
冬のオススメ ウイスキーカクテル4 『ラスティ・ネイル』
スコッチウイスキー×ドランブイ
店名にもなっている、スコッチウイスキーのリキュール「ドランブイ」を使ったカクテルが『ラスティ・ネイル』。「錆びた釘」とか「古めかしい」という意味があるという。合わせたスコッチウイスキーはスカイ島で作られるタリスカーの10年ものだ。
「ドランブイもウイスキーもアルコール度数が40度あるので、強いカクテルです。ドランブイはスコッチウイスキーにハーブや蜂蜜、スパイスが入っているリキュールですが、それとスモーキーでスパイシーなニュアンスがあるタリスカーはすごく相性がいいんです」。
ドランブイもタリスカーもスコットランドのスカイ島出身。同じ土地を由来とするため、馴染みがいいという。バー ドランブイでは、ウイスキーをストレートで数杯楽しんだ後の〆にこのカクテルをオーダーするゲストが多いという。
ロックスタイルだが、高いアルコール度数やスパイスの香りで体の奥から温まるようなイメージが冬を連想させる。使ったグラスは、100年以上前にデザインされたバカラのカットグラス「コルベール」のロックグラス。ふちが薄く繊細な口当たりがカクテルをより美味しくする。
冷たい温度帯でも、深い味わいや熟成感のあるスコッチウイスキーをベースに使うことで、カクテルに冬らしい表情を与えた梅本さん。その華麗なカクテルの数々で冬のウイスキーを楽しんでみたい。
Bar Drambuie
バー ドランブイ
梅本さんは宇都宮のバーで腕を磨いたあと、バカラのバーを経て2010年にバー ドランブイを開店。オールドボトルから希少な限定品まで揃うウイスキーの他、カクテルもおすすめ。店名になっているドランブイは約10種類。古いものは1960年代のものから、日本未入荷の限定品まであるので味わってみたい。
住所:東京都足立区千住1-37-1 山本ビル1F
電話:03-5244-6646
営業時間:17:00~翌3:00
定休日:火曜、12月は30日まで無休
予算:カクテル1100円~、ウイスキー1200円~、チャージ700円。
※掲載価格は税込価格です(2017年11月現在)
(取材&文・岡本ジュン 写真・貝塚隆)
PROFILE 岡本ジュン
“おいしい料理とお酒には逆らわない”がモットーの食いしん坊ライター&編集者。出版社勤務を経てフリーに。「食べること」をテーマに、レストラン、レシピ、お酒、生産者、旅などのジャンルで15年以上に渡って執筆。長年の修業(?)が役に立ち、胃袋と肝臓には自信あり。http://www.7q7.jp/