WHISKY CHASER

2017.12.13

身近だけど意外と知らない
バーボンウイスキーの世界

 

甘やかな香りと琥珀色の美しい液色を持つ、世界5大ウイスキーのひとつであるバーボンウイスキー。世界的にアメリカンウイスキーの人気が加速する中で、こちらもただ今人気上昇中。そこで、5大ウイスキーの中でも、強いキャラクターや独創的な世界感を持つバーボンウイスキーの魅力を紐解いてみたい。

 

今夜ウイスキーがあったらなら◇第6夜

——バーボンウイスキー 入門編

 

アメリカンスピリットを宿した

バーボンウイスキー

 

あらゆるバーが存在する東京でも、スコッチをメインに揃えるバーと比べると、バーボン専門のバーはかなり珍しい。京橋にあるバーボン専門店Ken’s barはその貴重な1軒で、バックバーにはおよそ1000本のバーボンが収まっているという。

 

この店のオーナーバーテンは松山謙さん。

10年以上に渡ってアメリカを訪問し、バーボンウイスキーの生産者たちと交友関係を築いてきた。一言で言えば、バーボンの東京アンバサダーのような存在といえる。そんな松山さんに、バーボンウイスキーの魅力を教えてもらった。

 

最初に、ストレートにバーボンの魅力を聞いてみると、少し考えた後に松山さんはポツリと言った。

 

「トウモロコシ由来のバーボン特有の甘い香りかな」。

 

そう、バーボンの特徴はいろいろあるが、まずは“トウモロコシが主原料のお酒”と覚えるのが

分かりやすい。

 

 

バーボンはアメリカで造られるアメリカンウイスキーの一種だ。アメリカの法律ではこう定義されている。『原料の穀物中にトウモロコシを51%以上含み、アルコール度数80度以下で蒸留する。内面を焦がしたホワイトオークの新樽を使って、アルコール度数62.5度以下で熟成する』。

 

バーボンの主原料はトウモロコシのため、その香りや風味がバーボンを特徴づけている。さらに、2年以上熟成させたものはストレート・バーボン。その中でも、単一の樽から造られると「シングル・バレル・バーボン」、5~10数種の樽をブレンドして造られると「スモール・バッチ・バーボン」と呼ばれている。

 

さらに、バーボンウイスキーの本場、ケンタッキー州で生産されたバーボンウイスキーは

「ケンタッキー・ストレート・バーボン」と明記されて区別されている。

 

バーボンを知るなら

まずは王道の3本から始めたい

 

Ken’s barにあるだけでも1000本以上、マイクロディスティラリー(蒸留所)が次々とオープンしているバーボンの世界は、このところ無限に拡大しているといっていい。だから、もしあなたがバーボンビギナーならば、いったいどこから手を付けたらいいのか途方に暮れるに違いない。そこで、松山さんに『最初に飲みたい王道の3本』を選んでもらった。

 

エヴァン・ウィリアムス12年/ヘヴンヒル蒸留所

 

 

バーボンの聖地と言われるケンタッキー州ルイビルで、コーンウイスキーを最初に造ったとされるのがエヴァン・ウィリアムス。その名前を冠したブランドだ。アルコール度数50.5度と高めながら、バランスが良く香りは上品で飲みやすい。

 

「コスパのいいバーボン」と、松山さんもイチオシ。

ぜひストレートでそのままじっくり味わいたい。

 

 

ワイルドターキー8年/ワイルドターキー蒸溜所

 

 

四季の寒暖の差が大きいために長期熟成が困難といわれるケンタッキーで、最低でも6年熟成させることや、低めのアルコール度数で蒸留するなど、こだわりの製法で真似のできない唯一無二の味わいを造りだす。深いコクと腰の据わった力強さ、その中に繊細な味わいが散りばめられている。ストレートでもいいが、しっかり熟成されているのでロックにしても味が崩れず、さっぱりと飲める。

 

メーカーズマーク/メーカーズマーク蒸溜所

 

 

クラフトマンシップにこだわった小さな蒸留所が手掛けている。一瓶ずつ施された赤い封蝋が手作りの証。松山さんいわく「オールマイティなバーボンウイスキー」。ストレート、ロック、ハイボールなど様々な楽しみ方ができる。ハイボールにすると華やかに香りが広がり、軽快な飲み口が楽しめる。オーセンティックなバーには必ずと言っていいほど置いてあるのでバーボン入門としても入りやすい。

 

バーボンウイスキーへ

もっと深い旅を楽しむなら、これを

 

松山さんがバーボン専門のバーをオープンしたのは2005年。それまで営業していたバーが引っ越すこととなり、新宿ゴールデン街の小さなスペースに移ることになった。当然だが、いままでと同じ数のお酒を置くことはできない。そこで、この機会に以前から好きだったバーボン専門のバーにしようと思い立ったのだ。

 

ところがいろいろ調べてみると、その頃の日本にはバーボンウイスキーの情報がほとんどない。あっても古い。そこで困った松山さんは

 

「ならば、行くしかあるまい!」 と決心したのだ。

 

そこから、毎年のようにバーボン蒸留所を巡る旅が始まった。現地に通ううちに顔を覚えてもらうようになり、いつしか生産者達と仲良くなっていった。それから10年以上を経て、今やニューヨークのウイスキ―ソサエティでも、ケンタッキーの主な蒸留所でも、松山さんは知られた存在だ。もちろん蒸留所通いは健在で、毎年のように人を連れて蒸留所ツアーを行っている。2017年は13の蒸留所を回ってきたという。

 

 

さて王道はわかった。では、一歩進んで飲むならば?

と聞いてみると、それぞれキャラクターの強い5本を上げてくれた。

 

右から紹介すると、まず、メジャーな銘柄であるジンビーム。でもこれは通常のボトルではなく、6年以上の長期熟成を経ているジムビーム ブラックだ。熟成によってもたらされた深みのある風味を知るとジムビームの印象もガラリと変わるかもしれない。

 

ここのところ注目されているバッファロートレースは、少量生産のハイクオリティなバーボンを造ることで知られる。その蒸溜所の名前を付けた銘柄はフラッグシップボトル。名前に恥じない緻密で高品質なバーボンに仕上がっている。

 

背の高い細身のボトルにゴールドの蝋封がまるでブランデーヤワインのようにエレガントなベリー・オールド・セントニック 12年 エンシェントカスク。これはたった3人が手作業でボトリングするごく少量生産の希少なバーボンウイスキー。専門店やこだわったバーなどでしか見かけないかもしれない。

 

ジョニー・ドラムはバーボンの中でも個性的なテイストが特徴だ。その中でも15年以上熟成させた原酒を主役にしたプライベートストックは、より奥行きのある味わい知ることができるため息ものの1本だ。

 

オールドウェラー107 アンティークは、前述のバッファロートレース蒸留所が造る、小麦を使ったバーボンウイスキーの看板商品。このアンティークはブランド設立時の味わいを現代に再現した特別規格品だ。

 

バーボンのことなら松山さんに聞きたい。
数多くの蒸留所へ行った話を聞くのも興味深い。

 

一口にバーボンと言っても、じつはその世界は広く深く、とても簡単には語り尽くせない。

そこで、次回はもう少し掘り下げて、このところ話題になっている、若手が立ち上げた小さな蒸留所のものやプレミアムバーボンと言われる高級品など、現在のバーボン事情を探ることにする。

 

 

Ken’s bar 京橋本店

ケンズ バー キョウバシホンテン

 

2016年、12年続いたゴールデン街から京橋に本店を移した。バーボンウイスキーならばおそらく品揃えは日本一。本場アメリカやケンタッキーでも知られた存在だ。カウンターの奥には広いテーブル席と、その奥にステージがあり、ライブが行われることもある。ある有名バーボンウイスキーを樽で買って、日本の蒸留所で寝かせたバーオリジナルのボトルも飲んでみたい。

 

住所:中央区八丁堀3-11-12 Floor and Walls Hacchobori B1

電話:03-6869-7887

営業時間:18:00〜翌2:00(翌1:30LO)、土曜・祝日:18:00~24:00

定休日:日曜

予算:3,000円~

 

※掲載価格は税別価格です(2017年12月現在)

 

 

(取材&文・岡本ジュン 写真・貝塚 隆)

 

PROFILE  岡本ジュン

“おいしい料理とお酒には逆らわない”がモットーの食いしん坊ライター&編集者。出版社勤務を経てフリーに。「食べること」をテーマに、レストラン、レシピ、お酒、生産者、旅などのジャンルで15年以上に渡って執筆。長年の修業(?)が役に立ち、胃袋と肝臓には自信あり。http://www.7q7.jp/