WHISKY CHASER
ウイスキーを輝かせる
チョコレートとの親密な関係
長い熟成を経て琥珀色に仕上がるウイスキー。そのストーリー性のある生い立ちは、人を魅了してやまない。ストレートのウイスキーを美味しく飲むためのチェイサーのように、ここでは毎月テーマを変えて、ウイスキーにまつわる様々な話をお届けする。
今夜ウイスキーがあったらなら ◆第1夜
口の中でほどけるアロマの
めくるめくマリアージュ
「このチョコレートを食べて、その後でアードベッグを飲んで口の中で合わせてみてください」。
と言うのは、ドンナ・セルヴァーティカのオーナーバーテンダー古屋敷さんだ。言われた通りにチョコレートにウイスキーをミックスすると、うっとりするようなウイスキーの香りに、チョコレートのピュアな甘さと香りが絡み合い幸福感が広がった。
「蒸留酒は“味”よりも“香り”が支配的な飲み物です。そこで蒸留酒の“香り”にチョコレートの“味”をマリアージュさせるイメージです。“味”を明確に持っているチョコレートがマリアージュのカギを握っています」という。
ここでいうチョコレートとは、カカオの中でも10%ほどしかないファインカカオを始め、すべてが高品質な素材のハイクオリティなものだ。ドンナ・セルヴァーティカでは、最高級のファイン・チョコレートと蒸留酒と合わせて、驚くほどの官能のマリアージュを引き出してくれる。
マリアージュに関して、古屋敷さんは独自の方法論を編み出していた。
ファイン・チョコレートをそれぞれの味わいである『味のプロファイル』で分類し、『人が味を感じる仕組み』を利用して、ウイスキーとチョコレートを合わせる『タイミングを計る』ことでマリアージュを完成させるというのだ。
チョコレートの『味のプロファイル』は、比較的ビターな余韻を持つ『ビター型』と、甘さ・苦味・酸味のバランスがとれた『バランス型』の2つが代表格。それぞれウイスキーとチョコレートを合わせるタイミングが違うという。今回はスコッチウイスキー、アイリッシュウイスキー、バーボンの3つのウイスキーとのマリアージュを教えてくれた。
mariage A
アードベッグ 1990 アリナームビースト×イボワール/ヴァローナ
スコットランド・アイラ島で造られる「アードベッグ」は、アイラ独特のスモーキーなピート香が特徴的だ。中でも「1990 アリナームビースト」は、力強いピートの香りから後にほのかな甘さのニュアンスやビターな味わいが広がって長い余韻をもたらす。今回のマリアージュに選んだのは、世界中のトップ・パティシエから支持されるフランス・ヴァローナのホワイトチョコレート。このチョコレートは『バランス型』で、チョコレートとウイスキーを同時に味わい、お互いの『相乗効果』を狙うのがポイント。「アードベッグ」の強いピート香に包まれて、チョコレートの透明なミルク感がゆらぐ心地よさは唯一の体験をもたらす。ピート香のあるウイスキーには、この『バランス型』のマリアージュがおすすめだという。
mariage B
ブッシュミルズ 21年 ×プエルトフィーノ/ドモーリ
ブッシュミルズは現在操業するアイルランドのウイスキー蒸留所の中では最も古い歴史を持つ。「ブッシュミルズ 21年」は、19年間をシェリーのオロロソの樽とバーボン樽で熟成した後にマデラの樽で2年間熟成させている。フルーティな香りと口の中で優しい甘さがそっと広がる味わいだ。世界でわずか0.01%にも満たない、希少なクリオーロ種のカカオを使ったチョコレート、イタリア・ドモーリの「プエルトフィーノ」は、キャラメルやクルミ、デーツ、樹木などの複雑な香りや味覚を持ち、チーズのようにコクのあるテクスチャー。こちらは『ビター型』で、先にチョコレートを味わい、その深く長い余韻にフルーティなブッシュミルズを追いかけて飲む。するとチョコレートの余韻の中にある苦味がウイスキーの麦の甘さをひきたて、艶のあるマリアージュをもたらす。お互いの「相対効果」を狙うのがポイントだ。ピート香のないスコッチなどにもこの『ビター型』のマリアージュがいい。
mariage C
テイラー スモールバッチ×オランジェット/ショコラティエ・ミキ
ケンタッキー・バッファロートレース蒸留所で造られるバーボン「テイラー」は、バーボン業界の生みの親の一人で、蒸留所の設立に大きく貢献したコロネル・エドムンド・ヘインズ・テイラー・ジュニア氏の名前を付けたプレミアムバーボンのシリーズ。バニラやソフトなコーンの香りからクレームブリュレへ、やがてほのかな柑橘系の甘さを含んだタバコとスパイスの長く続く余韻が心地いい。バーボンの特徴である甘い香りはミルクチョコレートとの相性が抜群だ。砂糖漬けのオレンジにミルクチョコレートをかけた「オランジェット」を合わせると、さらに遊び心のあるマリアージュが完成する。チョコレートとウイスキーを同時に味わうと、オレンジの柑橘の味わいが極上スイーツを味わうような感覚を招き寄せる。
また、ウイスキーとチョコレートのマリアージュで気を付けたいのは温度帯で、基本は常温。ストレートで飲むのが最もふさわしい。ロックやハイボールにすると、口の中が冷えてチョコレートの味わいや香りが広がりにくく、マリアージュの醍醐味が発揮されないという。どうしても冷たいお酒にチョコレートを合わせたいなら「生チョコ(ガナッシュ)」などを冷凍庫で冷やすといい。
ドンナ・セルヴァーティカ
店名は伝説のグラッパ職人ロマーノ・レーヴィ氏のグラッパに描かれた少女の名前からとっている。店にはロマーノ・レーヴィのストックが180本ほどあり、順次新しく開封してくれる。ウイスキー以外にも100種類以上のコニャック、アルマニャックなどをメインとした上質な蒸留酒が計350本ほど揃い、パイプやシガーなどと共に、40種類以上のファイン・チョコレートとのマリアージュも楽しめる。
住所:東京都渋谷区神南1-3-3 サンフォーレストモリタビル4F
電話:03-6416-9272
営業時間:18:00~02:00
定休日:日曜
予算:5,000円~。チャージ1,000円
(取材&文・岡本ジュン 写真・貝塚隆)
PROFILE 岡本ジュン
“おいしい料理とお酒には逆らわない”がモットーの食いしん坊ライター&編集者。出版社勤務を経てフリーに。「食べること」をテーマに、レストラン、レシピ、お酒、生産者、旅などのジャンルで15年以上に渡って執筆。長年の修業(?)が役に立ち、胃袋と肝臓には自信あり。http://www.7q7.jp/
※掲載価格は税別価格です(2017年7月現在)