世界のワインめぐり

2019.02.04

古代ワインの回帰
オレンジ色のワインを求め
インプルネータへ

会場に飾られた甕(アンフォラ)。内側には蜜蝋を塗るなどし、ワインがもれないように工夫をしている。

希少価値の高いオレンジ色のワインを求め、フィレンツェの郊外にある素朴な村「インプルネータ」を訪ねた。

 

インプルネータはトスカーナの名産、オリーブオイルなどの保存容器(アンフォラ)に使われる原料テラコッタの産地として有名な場所だ。ソムリエ試験の講習のためトスカーナ州に滞在していた際にイタリアでも珍しいワインの試飲会があると聞き訪れた。

 

 

醸造の世界へ新しい試み「テラコッタワイン」

 

テラコッタとはイタリア語でテッラ(terra)=土、コッタ(cotta)=焼くという意味で、素焼きの粘土や陶器のことだ。

 

約5000年前にジョージア(旧グルジア)で発祥したといわれる古代ワイン作りにはこのテラコッタの甕(アンフォラ)が使用されていた。そして古代ギリシャ・ローマ時代にイタリアへと広まり、ワインの醸造、熟成、貿易に使用されるようになった。

 

アンフォラで作られるワインは全過程で完全無農薬、瓶を土の中に埋めて自然の温度で熟成させる、言わばビオワインの元祖だ。

 

醸造法は赤ワインの醸造法と同じで、ぶどうの果皮と果汁を長時間接触させ、そのまま発酵へと導く。スキンコンタクトと呼ばれるこの工程が長いほどワインに濃い色がつくため、通常の白ワインより長時間熟成させるテラコッタワインはオレンジ色に仕上がる。最近はそういったワインが「オレンジワイン」と呼ばれ人気を呼んでいる。

 

ステンレスタンクや樽での醸造、熟成が主流である現代のワイン作りの原点として、近年ビオワインの生産者たちを中心に世界中から注目されている。

 

各国のテラコッタワインのテイスティングの様子。

 

 

なぜ、テラコッタを使うのか

 

自然の原料テラコッタで作られたアンフォラは、ワインの醸造、熟成、保存の全てにおいて最適である。テラコッタは断熱性に優れ、多孔度のある素材は酸化をゆるやかに進め、タンニンを柔らかく風味に複雑性を出す。また、瓶を土の中に埋めることで、醸造中に瓶内部の温度が一定に保たれ、ワインが触れる酸素の量もわずかにとどめることができる。

化学薬品を一切使わないため、オーガニック、バイオダイナミック農法を実践するワイン生産者を中心にこの醸方法を取り入れる生産者が増えている。

 

会場内の一角で行われたテラコッタワインのセミナーの様子

 

 

お城の中で試飲会、注目のテラコッタワインの生産者

 

テラコッタワイン試飲会場の様子。石造りの城内が趣のある空間を演出している。

 

試飲会は中世の名残りを感じる石造りのお城の中で行われた。イタリア国内を中心に、海外からもフランス、ギリシャ、アメリカ、オーストラリアなど約50社の生産者が出展しており入場料を払えば全ての生産者の試飲が可能だ。イート・イン・スペースではトスカーナの名物、リボッリータやサラミの入ったパニーニなどが楽しめる。

それでは試飲会で気になった生産者をいくつかご紹介しよう。

 

トスカーナの名産、カボロネーロ(黒キャベツ)を使ったリボッリータの乗ったパン。

 

 

-Henri Jiraud アンリ・ジロー

 

入口を入ってすぐに目についたのがフランスの偉大なシャンパーニュの作り手アンリ・ジロー(Henri Jiraud)。自然派のワイン作りを徹底し、現在全てのキュベを木樽とテラコッタの瓶で熟成させている。イギリスやモナコなど、ヨーロッパ上流階級で愛飲されていた「幻のシャンパーニュ」の作り手が手がける注目のテラコッタシャンパーニュだ。

 

イギリスやモナコなど、ヨーロッパ上流階級で愛飲されていた「幻のシャンパーニュ」の作り手アンリ・ジロー

 

 

-Azienda Agricora Arrighi アジエンダ アグリコラ アリギ

 

テラコッタワイン初心者の私にも飲みやすいと感じたのがトスカーナの離島、エルバ島にワイナリーを構える生産者アジエンダ アグリコラ アリギ(Azienda Agricora Arrighi)の白ワイン。海風のミネラルを感じ、すっきりとした飲み口が特徴だ。エルバ島はナポレオンが流刑になった場所としても有名だが、ワインの最高格付けDOCG認定を受けたワインの一つもこの島で生産されているだけあり、島全体で希少価値の高いワインを楽しめる注目の場所だ。

 

 

-Vinicola Savese ヴィニコラ サヴェーゼ

 

試飲会の中で最も印象に残ったのは、プーリアの生産者 ヴィニコラ サヴェーゼ(Vinicola Savese)の赤ワインだ。テイスティングはアンフォラから直接グラスにワインを注いで頂き、出展していた全種類のワインを試飲させて頂いた。南イタリア、プーリアの太陽を存分に浴びて、熟した果実の甘みがまろやかな赤ワイン。アルコール度数はやや高め、このワインは早い段階で売り切れる程の人気だった。

 

プーリアの生産者 ヴィニコラ サヴェーゼ。右奥の甕から直接ワインを注いで頂いた。

 

 

-Minimus Wine ミニムスワイン

海外部門ではアメリカ、オレゴン州のミニムスワイン(Minimus Wine )。独自の哲学、製法でワインを少量生産している、古代ワインの回帰をアレンジし現代的に発信している。

 

 

現代人こそ飲むべき古代ワインの魅力

 

一概にテラコッタワインといっても優しくて自然な味わいのものから個性的なものまで様々だが、通常の白ワインに比べ飲みごたえがあるものが多い。無農薬(ビオ)のワインというと還元臭と呼ばれる硫黄のような独特な匂いがあるため好き嫌いに別れるが、現在は改良し飲みやすいワインを生産するワイナリーも増えているので、好きかどうかの判断を下す前に色々な種類を試してみることをおすすめしたい。

 

また、テラコッタワインは酸化防止剤をはじめ化学薬品を使用していないのでワインを飲むときにありがちな頭痛や二日酔いも起こりにくい。現代の健康志向で忙しい人々へぜひおすすめしたいワインだ。

 

 

フィレンツェの郊外インプルネータの村の景色

 

 

 

マリーニ あゆみ

Ayumi Marini

福岡県出身。イタリアソムリエ協会認定ソムリエ・元客室乗務員。モデル、IT企業、留学など経験後、結婚を機にイタリアへ移る。ワインの宝庫ピエモンテとトスカーナでワインを学びプライベートワイナリー訪問のコーディネートを行う 。現在はアメリカ在住。旅とワインのブログではおすすめワイナリーや旅の様子を発信中。https://asmwine.com/