世界のワインめぐり

2018.10.22

上質な秋のワイン旅
生涯をバローロに捧げた
ドメニコ・クレリコのワイナリーへ

紅葉したバローロのワイナリー

 

バローロへ訪れるなら、秋がいい。秋が深まるバローロではぶどう畑が色づき、トリュフやポルチーニ茸など地域の名産物が旬を迎え、紅葉の中でワインと美食を楽しめるベストシーズンだ。

 

 

秋に旬を迎えるポルチーニ茸を使ったタヤリンパスタ 右は白トリュフ。ウエイターがストップというまで削ってくれる。

 

 

ワインの宝庫として知られるピエモンテ州。王様のワインと讃えられる「バローロ」や前回の記事でご紹介した「バルバレスコ」は今や世界中で評価されている高級ワインで、どちらもここピエモンテ州で醸造される。

今回は紅葉と美味しいワインを求め、バローロを語る上で欠かす事ができない生産者ドメニコ・クレリコのワイナリーへ訪れた。

 

 

バローロワインに革命を起こした

「バローロ ボーイズ」

 

バローロといえば、どっしりとした重みのある味わいと、果実味やスパイスなど複雑性のある香りが特徴であるが、以前は渋くて酸味の強い飲みにくいワインであった。

 

そんなバローロワインに革命をおこしたのが「バローロ ボーイズ」と呼ばれる当時の若手生産者たちである。彼らを中心にバローロをフルーティに飲みやすいワインへと変える動きが始まったのだ。伝統に固執する伝統派と新しく生まれたモダン派の抗争を繰り広げながらもバローロは徐々に広まり、今や世界40カ国に輸出されている知る人ぞ知る高級ワインの地位を築いていった。

 

 

「バローロ ボーイズ」の代表格
ドメニコ・クレリコ DOMENICO CLERICO

 

ぶどう畑を横目に車を走らせていると、一際目をひくモダンな建物が見えて来た。ゲートが開くとスタイリッシュなワイナリーの奥に美しい眺望が広がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中へ入るとスタッフのジョルジアさんが、カンティーナの歴史や概要を説明してくれた。さっそく醸造過程の話を聞きながら、奥へと進む。セラー内や醸造機器一つ一つは清潔に保たれている。

 

 

熟成中のワインが眠るセラー。フレンチオークのバリックが一面に並ぶ。

 

 

熟成過程の樽が並ぶセラーへと移動すると、一面にバリックが並んでいた。バローロ作りの過程で一番の改革は、それまで大樽を使っていた熟成過程にバリック(小樽)を用いたことだった。新しい技術を取り入れることにより伝統派から批判も受けたが、情熱をもって突き進んだドメニコ氏らの試行錯誤の末生まれた技法は、のちに高く評価され現在もモダン派のバローロの技法として継承されている。

 

 

自ら来客者を先導するドメニコ・クレリコ氏。

 

 

イタリアワイン・ルネサンスの立役者とも呼ばれたドメニコ氏のお話を伺いながら感銘を受けているとどこからともなくドメニコ氏ご本人が現れワインの状態をチェックしながら、試飲まで同行してくださることになった。

 

 

ぶどう畑と一体化したかのような

美しいテイスティングルーム

 

見学を終え明るく開放感あふれる試飲室へ。ガラス張りの窓からは秋の色に染まったぶどう畑が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

本日試飲したのは、ランゲ・ネッビオーロ(Langhe Nebbiolo)バルベーラ(Barbera)バローロ (Barolo)を含む5種類。どれもピエモンテ州を代表するぶどう品種から作られる。窓から見える景色に見とれながら席に着くと、ドメニコ氏自らが品質をチェックしてから、全員へワインを注いでくれた。テイスティングをする真剣な眼差しと、柔和な表情で一人一人に接する姿が印象的だった。

 

 

「ワインの質の90%は畑で決まる」という信条の元作られるワインはロバートパーカーから5つ星評価を受けるなどバローロ ボーイズの枠組みを外したところでも偉大な生産者として位置付けられている。

 

 

はじめにランゲ・ネッビオーロを試飲した。バローロと同様ネッビオーロ100%を使用しているが長期熟成でなく早く飲むことができる。タンニンは柔らかめ、しっかりとしたベリーやプラムの香りが香る。バルベーラはピエモンテの地元の人々に愛され、カジュアルに飲まれているワインだが、ドメニコ・クレリコの作るバルベーラは上品でまろやか、熟したプルーンの香りなどが感じられる上質の味わいだ。
最後にPer Cristina「クリスティーナへ」と名付けられたバローロがグラスに注がれ、バラの花や赤い果実を思わせる甘い香りがふんわりと広がり、口の中には心地よい後味が残る。亡くなった愛娘クリスティーナへ捧げるために作られたワインだと、ドメニコ氏の隣でジョルジアさんが説明した。

 

 

「自分の仕事を愛さないのは、人生を失ったも同然」

ワインに捧げたドメニコ・クレリコ氏の人生

 

当初4ヘクタールから始まった畑は現在21ヘクタールに拡大し年間11万本のボトルを生産するまでに成長した。

 

ドメニコ氏は独学でワイン造りを学び試行錯誤の末に生み出した技術を惜しみもなく同業者たちと共有した。

家族や友人との時間を大切にしながら生涯をワインに捧げた彼の生き様は映画「バローロ ボーイズ」の主役の一人として映画化された。

 

ドメニコ氏に会った翌年の2017年に、彼は67歳にしてその生涯を遂げた。

「自分の仕事を愛さないのは、人生を失ったも同然。私は最後の日まで働き続け、ランゲの人々と家族にすべてを捧げます。」ドメニコ氏の残した言葉の通り、亡くなる直前までワイナリーへ出向き訪問する人々のグラスにワインを注いでいたことだろう。

 

 

 

 

彼らの残した教えは枯れることなく、バローロのスピリットとして今日も生き続けている。秋、イタリアでサグラと呼ばれる収穫祭では大地の恵みに感謝し、友人や家族、大切な人と食事を共にする。そういった理由からもバローロに行くなら、秋がおすすめだ。

 

 

 

 

Domenico Clerico ドメニコ・クレリコ

住所:12065 Monforte d’Alba (Cn)

Tel: +39 0173 78171

 

マリーニ あゆみ
Ayumi Marini

 

福岡県出身。イタリアソムリエ協会認定ソムリエ・元客室乗務員。モデル、IT企業、留学など経験後、結婚を機にイタリアへ移る。ワインの宝庫ピエモンテとトスカーナでワインを学びプライベートワイナリー訪問のコーディネートを行う 。現在はアメリカ在住。旅とワインのブログではおすすめワイナリーや旅の様子を発信中。https://asmwine.com/