Complicated Watch
宇宙の中に浮かぶ地球と月
そのダイナミックな動きを腕時計に
腕時計はもはや「時を知る道具」ではない。あなたの時間を豊かに彩り、輝かせ、ドラマチックなものに変える、美しく感動的なアート作品だ。時計メゾンは今、この認識の下、かつてない美しさとメカニズムを持つ芸術的な腕時計の製作に取り組んでいる。第5回目の今月は、大胆不敵なアイデアとデザイン、贅沢なジュエリー遣いで世界中のセレブリティを魅了する新進ブランド「ジェイコブ」の最新作をご紹介します。
Vol.5
JACOB & CO. 『Astronomia Sky』
ジェイコブ アストロノミア スカイ
時計界の常識に挑戦し続ける
NY発のハイジュエリー＆ウォッチブランド
100年間は修正が不要な永久カレンダーや、音で時刻を知らせるミニッツリピーターなど、電子技術を一切使わず、機械仕掛けで驚きの機能を実現するコンプリケーション（複雑）ウォッチ。そのルーツは18世紀に生まれたアブラアン-ルイ・ブレゲに代表される、時計史上にその名を残す天才時計師たち。彼らが製作した複雑懐中時計だ。
優れた精度とコストパフォーマンスで腕時計の世界を席巻したクォーツ腕時計のブームが終わった1980年代後半から、スイスの老舗時計ブランドは独立時計師たちと手を組んで、こうした複雑懐中時計のメカニズムを小さな腕時計の中に組み込むことに取り組んだ。だからこの時代のコンプリケーションウォッチは、ルーツである懐中時計のデザインを踏襲した古典的なものだった。
しかし2000年に入ると、コンプリケーションウォッチの世界は一大転機を迎えた。「お手本」だった複雑懐中時計の「腕時計化」はほぼ達成され、まったく新しい複雑時計作りが始まったのだ。そして過去の複雑時計の歴史にとらわれない新進時計ブランドの活躍が始まる。
天才ジュエラー、ジェイコブ・アラボが1986年にニューヨークに設立したジェイコブ（JACOB & Co.）も、そんなコンプリケーションウォッチの新しい作り手のひとつ。ひと目見たら忘れられないインパクトのあるデザインのハイジュエリーで一躍ビッグネームとなったジェイコブ。ハリウッドセレブや著名なミュージシャンなど世界中を自家用ジェット機で飛び回るジェットセッターたちの心を捉えたアラボは、次なるステップとして時計の世界への挑戦を決意。まず2002年に、顧客であるジェットセッターのための5タイムゾーンウォッチを開発。翌2003年に世界最大の時計宝飾見本市であるバーゼルフェアに初めて出展し、ハイジュエリー同様に大胆なデザインと機能、贅沢な宝石遣いで世界から集まった時計宝飾のプロフェッショナルたちを驚かせた。
ファイブタイムゾーン 47mm JC-1D
ジェイコブの名を一躍有名にした5タイムゾーンウォッチ。中央の時分秒３本の針に加えて、文字盤の４カ所にニューヨーク、パリ、ロサンジェルス、東京の時刻を表示する小時計が組み込まれている。直径47mmというビッグサイズ、カラフルな色遣い、そしてベゼルに輝くブリリアントカットダイヤモンド。ジェイコブといえばこのモデルを思い浮かべる時計関係者も多い。クォーツ/SSケース/ケース径47mm/アリゲーターストラップ/ベゼルに約3.25カラットのダイヤモンドをセット/3気圧防水/¥1,880,000（税抜）/¥2,030,400（税込）
世界的なセレブをアンバサダーに
独創的な時計作りをさらに加速!
2003年のバーゼルフェア出展で、ジェイコブは世界の時計関係者、特に超高額モデルを扱う関係者にとって、絶対に見逃せないブランドのひとつになった。そしてジェイコブはその期待を裏切ることなく、時計界の常識にとらわれないコンプリケーションウォッチを毎年発表し、その名をさらに高めていく。
2006年には世界で初めての1ヵ月（31日間）ロングパワーリザーブ（主ゼンマイをフルに巻いたら31日間、つまり１ヵ月間動き続ける）を実現したトゥールビヨンモデル「クインティン」を開発・発表した。ロングパワーリザーブモデルが注目されていたこの時期に、新進ブランドが１ヵ月というケタ違いのロングリザーブを開発・製品化してしまう。その実力に時計業界は驚いたのだ。
クインティン JC-QUENTTIN1
通常は1つか2つしかない香箱（主ゼンマイを収めた時計の基本パーツ）をケースの上部に7つも搭載し、31日間（＝１ヵ月）パワーリザーブを実現した超ロングリザーブウォッチ。地球の重力の影響で起こる時計の進み遅れを低減するトゥールビヨン機構も備える。まるで昔のレジスターのような指針式の日、時、分表示のデザインも画期的。手巻き/18Kホワイトゴールドケース/ケース径56 x 47 x 21.5 mm/ラバーストラップ/ホワイトゴールドが世界99本、18Kローズゴールドケースとプラチナケースが世界限定各18本。価格は要問い合わせ。
さらに2012年にはスイス・ジュネーブに時計作りのための拠点を設立。ジェイコブはさらにその大胆不敵な時計作りを加速させる。また、誰もが知っているハリウッドスターやミュージシャン、サッカー選手などトップアスリートをブランドアンバサダーに迎えたことで、ブランドの知名度はさらに高まった。
その快進撃を象徴するのが、2011年に発表され、2013年に製品化され世界的な人気モデルとなったワールドタイムウォッチ「ゴースト」だ。ブランド発展のきっかけとなったジェットセッターのための５タイムゾーンウォッチ。その機能をデジタル表示で、しかもユーザーの好みに合わせて20都市、7色の表示カラーが選べるLCDで実現した充電式のこのウォッチは、アンバサダーに現役世界最高のサッカープレーヤー、レアル・マドリード所属のクリスティアーノ・ロナウドを起用したこともあり、ジェイコブの名をさらに多くの人々が知るきっかけとなった。
ゴースト JC-GST-CAMOGR
世界20都市の中から5つの都市の現在時刻をデジタルで一覧できるワールドタイムウォッチ。さまざまなバリエーションがあるが、これはグリーンのカモフラージュ柄仕様。ベゼルにダイヤモンドをセッティングしたタイプもある。ベゼルは交換式で、2時位置と7時位置のボタンで簡単に交換可能（交換用プレーンベゼル付属。充電式クォーツ/ブラックPVD加工SSケース/ケース径47mm/ラバーストラップ/3気圧防水/¥740,000（税抜）/¥799,200（税込）
天空に浮かぶ地球と月
その姿をダイナミックに表現
ジェイコブのクリエーションはさらに加速する。2014年には初の天文コンプリケーションウォッチ「アストロノミア・トゥールビヨン」を発表。ジェイコブ独自のカッティングを施したダイヤモンド製の月と、チタニウムにエナメル塗装した月、そしてジェイコブが特許を取得した3軸トゥールビヨン機構と時分を表示するインダイヤルが、時計の中央から出た４つのバーにセットされている。そして3軸トゥールビヨンは60秒、5分間でそれぞれ違う方向に1回転。さらにこの４つの軸を持つ文字盤全体も20分で1回転する。そして、時分を表示するインダイヤルは特殊なディファレンシャルギアを使ったシステムにより文字盤のどの位置にあっても12時のインデックスが上に来る、つまり通常の時計の文字盤と同じように読める状態にある。
そしてこの「アストロノミア・トゥールビヨン」を進化させた、ジェイコブの天文コンプリケーションウォッチの最新・最高峰に位置するのが、今回ご紹介する「アストロノミア スカイ」だ。時計の文字盤の中央には、サファイアクリスタルのドームで覆われた、チタン製で手彫りの上にラッカーで装飾された地球があり、24時間で1回転しながら、地球の夜と昼の部分を表示。そしてアストロノミア トゥールビヨンと同じ、中心軸から出た４本のバーには、ダイヤモンドと時分を表示するインダイヤル、さらに回転速度が異なる3軸トゥールビヨン機構、そしてオービタルセカンドハンドと名付けられた回転式の秒表示機構、以上4つがセットされている。そして、前作同様に全体が20分で文字盤を1回転する。
さらにこの腕時計には「スカイ」の名が示すように、新たに星座表示機能も加えられている。ドーム型のサファイアクリスタル風防の中に浮かぶメカニズムの下には、1恒星年をかけて全体が1回転する、18Kゴールドの星を散りばめたブルーのセレスティアル（星座）ダイヤルがあり、その上の「オーバルスカイ インジケーター」が1日１回のスピードで文字盤を1回転しながら、北半球でその時に観ることのできる星座を表示してくれる。
私たちは気付くことはないが赤道を観測点にして計算すると、地球は何と1674.4 km/hという超ハイスピードで自転している。宇宙や天体の動きは、このことからも分かるように本当はダイナミックなもの。すべてがダイナミックに動き続けるこの天文複雑腕時計は、その意味でも画期的な作品。天文ファンはもちろんのこと、そうでない人にもぜひその存在を知ってほしいファンタジックな名作だ。
アストロノミア スカイ
ジェイコブが特許を取得したグラヴィテーショナル・トリプル・アクシス・トゥールビヨン機構（ひとつは60秒で、もうひとつは5分でそれぞれ別方向に1回転）、さらに地球儀によるデイ＆ナイト表示、3次元星座ディスプレイとの組み合わせでその日、北半球で観られる星座を表示するオーバルスカイインジケーターを搭載する超絶天文コンプリケーションウォッチ。ジェイコブ特許の288面「ジェイコブカット」を施した1カラットのホワイトダイヤモンド製。手巻き/18Kローズゴールドケース/ケース径47mm/ケース厚25mm/アリゲーターストラップ/ 世界限定18本/¥82,000,000（税抜）/¥88,560,000（税込）
問い合わせ先
ユーロパッション TEL.03-5295-0411
（取材＆文・渋谷ヤスヒト）
PROFILE 渋谷ヤスヒト
ジャーナリスト、エディター、メディアプロデューサー。モノ情報誌編集部員時代の1995年から現在まで、スイス2大時計フェアや国内外のあらゆる時計ブランドの取材を一貫して続ける腕時計のエキスパート。他にもクルマ、カメラ、家電、IT機器、ファッション、トラベル、食まで、国内外のあらゆるモノとコト作りの現場取材を続けている。
