クリス-ウェブ 佳子 理想の“おうち”

2019.08.09

[クリス-ウェブ 佳子 理想の“おうち”]
都心のヴィンテージマンション

いつも目を凝らすように観入っていたのは、個性的なインテリアや美しい造り付け、そして使い勝手の良さそうな間取りでした。

 

建築士だった父の大きな製図用デスク。その隣には私の小さな勉強机。小学校低学年までワークスペースを父と共有するという、思い返しても素敵な部屋割り。コーヒーをすすり、煙を燻らせながら設計図を引く父の横で、幼い私は製図用テンプレートやコンパスを使って設計製図用紙に理想の“おうち”を描くことに夢中でした。理想の“おうち”探しは子どもの頃から始まっていたのです。そして、そんな私が大きくなって心奪われたのが海外ドラマに登場する家々でした。

 

 

 

リビングルームから二階へと続くかね折れ階段の下には、出窓と造り付けソファを設えた家族のライブラリースペースが。吹き抜けのリビングルームの真ん中にはチェックのソファセットが配されていて、そこは家族や訪れる友人たちとの確かな集いの場所になっています。これは90年代に世界各地で放送されたアメリカの人気シットコム『フルハウス』に登場するタナー家が住む家です。

 

丸い下り壁で開放的に区切られたLDK。コーナーを描く小さなカウンターキッチンには、まるで自宅のようにその勝手口から入って来るクラスメイトたちが集い、時間を忘れておしゃべりに興じる。社交場の役割を果たす家、そして大人びた高校生たちのハイソな暮らしぶりにも憧れました。そう、これは『ビバリーヒルズ高校白書』のブレンダとブランドンが住むウォルシュ家の家です。

 

開放感ある一体開放型のLDKにふたつのベッドルーム。LDKの壁紙がライラック色で、大人になったら私も自分の好きな色で壁を彩ろうと夢が膨らみました。こちらはシーズン10まで続いた長寿番組、『フレンズ』のモニカとレイチェルが住むアパートメントの間取りです。

 

 

そして最も恋い焦がれたのが彼女の家。彼女にとって重要な執筆の場所でもあるベッドルームと散らかった小さな白いバスルームを繋ぐウォークスルークローゼット。そこに並ぶのはきらびやかなドレスやコート、流行最先端のハイヒールやバッグの数々。窓際に置かれたデスク、ヴィンテージ風のサイドボード、ベッドサイドの椅子、そしてたくさんの本とランプ。『SEX AND THE CITY』の主人公、キャリー・ブラッドショーの住む部屋に恋した人は少なくないはず。

 

 

 

都心のヴィンテージマンション。この夏で住み始めて五年目になる私のマンションは偶然にも築年数が私の年齢と同じです。家族で住んでいる家ということもありますが、そんな偶然の理由もあって私はこの家が大好きです。窓のある縦長のキッチンは家族が一番集まる場所で、キッチンの隣にはダイニングルームとリビングルームが続きます。二枚の頑丈な引き戸で間仕切ることができるので、時々ダイニングルームは私の仕事場になります。「今から行ってもいい?」と仕事仲間がやってきては、ここで、今私がこれを書いているダイニングルームで一緒に仕事をします。玄関を入って左すぐのゲスト用バスルーム、その洗面台には「ご自由に」という気持ちを込めて様々の香水を置いています。だから我が家に遊びに来る友人はいつも良い香りで帰っていきます。

 

 

仕事をする父の横で不動産広告チラシに掲載されたマンションの間取りを眺めては、頭の中で空間を組み立てることに没頭していた幼少期。あの頃から約30年。今こうして誰かにとって理想の“おうち”となるお部屋探しのお手伝いができること、大変嬉しく思います。次回は私が旅先で出逢った理想の“おうち”を紹介します。お楽しみに!

 

 

クリス‐ウェブ佳子(モデル・コラムニスト)

1979年10月、島根生まれ、大阪育ち。4年半にわたるニューヨーク生活や国際結婚により、インターナショナルな交友関係を持つ。バイヤー、PRなど幅広い職業経験で培われた独自のセンスが話題となり、2011年より雑誌「VERY」専属モデルに。ストレートな物言いと広い見識で、トークショーやイベント、空間、商品プロデュースの分野でも才覚を発揮する。2017年にはエッセイ集「考える女」(光文社刊)、2018年にはトラベル本「TRIP with KIDS ―こありっぷ―」(講談社刊)を発行。interFM897にてラジオDJとしても活動中。

 

 

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